世界初!森林浴発祥の地をめぐるインバウンドツアーを終えて〜What is made in Japan?〜
2019年、世界中で移動が制限されるなんて想像もできなかった頃、
海外からこんな連絡が届くようになりました。
「日本へ森林浴を体験しに行きたいんだけど、ガイドをお願いできますか?」
「日本へ森林浴を学びに行きたいのですが講座はありますか?」
日本の森林浴・・・、何を期待しているのだろう?
「あたらしい森林浴」という書籍を執筆していながら、日本の森林浴は世界からどう見えているのか・・
問い合わせメールを読むたびに、なぜ日本の森林浴を知ったの?森林浴ってなんだと思ってるの?
と疑問を抱くようになりました。
2019年7月書籍を出版した直後、わたしはアメリカ ソノマ州立大学で開催された
「森林浴の国際カンファレンス」に出席し、日本の森林浴についてプレゼンテーションをしました。
これまで森林浴についてプレゼンする機会は数えきれないほどありましたが、“日本の森林浴” という主語で森林浴についてプレゼンしたのは、この時が初めてでした。
この経験をきっかけに、改めて日本人にとっての森林浴とは何か、その価値について考えるようになりました。
森林浴
森林浴とは、一言で説明すると「森を浴びているような心地」のこと。
森林環境による身体への科学的な効果が注目されていますが、言葉自体に科学的根拠や、やり方などの意味はありません。
それは、海水浴という言葉に、海による身体への効果や海水浴のやり方、などの意味がなのと同じことです。森林浴という言葉が提唱された当時(1982)の記事を見ていると、樹木が放出する物質(フィトンチッド)が、健康に良い効果があるとわかったこともきっかけになってるようですが、森林浴は、健康にも良いし森に行こう!という程度の意味で使われていました。
しかし今、森林浴は世界が注目するShinrin-yoku
世界における”日本発祥の森林浴”の価値を自分自身で理解するため、海外の人を日本に招き、
日本の森で森林浴のインバウンドツアーを企画してみよう。と思いをあたためてきました。
世界初、森林浴発祥の地をめぐるインバウンドツアーの実施
2019年から思いを募らせ、covid-19の壁を乗り越え、
2023年10月、ついにツアーを開催することができました!
プレスリリース:世界初、森林浴発祥の地をめぐるインバウンドツアーの実施
自社企画ではじめて行うインバウンドツアーは、イーツアー株式会社さんに協力をいただきながら、企画、運営、添乗、講師まで全てを自分たちで行いました。そして、今回のツアーには、海外の方の中でも森林浴に関心があり、自ら学ぼうとしているコアな方を対象とすることにしました。
募集にあたっては、以前から交流があった、海外で森林浴のガイド育成を行っているANFT(2019年森林浴の国際カンファレンスに招きいただいた)に相談をして、会員向けに募集をかけることにしました。
募集開始後、10日ほどで満席に。
20名の定員枠はあっという間に満席!追加で席を増やし、23名満員御礼キャンセル待ち状態に。
参加者の大半が日本に来るのが初めてという方々でしたので、渡航前に参加者とオンラインMtgを行いました。(アメリカ・カナダ・コロンビア・ニュージーランド・オーストラリア・シンガポール・香港)
その時にわかったのですが、彼らの参加動機は 聖地巡礼。
森林浴発祥の国から学び、日本の森を歩くことを楽しみにされていました。
改めてツアーの内容を見直し、今回は森林浴発祥の地である長野県上松町と、東京都奥多摩町の森を訪ねることにしました。森林浴の企画をするとき、森と未来がいつも大切にしていることは、参加者だけでなく、訪れる森やその地域にとって、さらに企画する自分たちにとって、有益な取り組みになるよう森林浴を企画すること。
今回のツアーは、上松町、奥多摩町に相談をし、現地ガイドの皆さん、観光協会、お宿、ツアーを添乗する森林浴ファシリテーターの仲間たちと共に、9ヶ月かけて準備を進めました。
ツアーでわたしが1番伝えたかったことは、森林浴が誕生した日本の背景でもある、「日本人と森との関わり」について。ツアー内では、健康効果やエビデンスについての話は最小限にして、“その土地に伝わる森と人の関わり”が伝えられるよう、地域における森の存在、暮らしと森の関わりなど、地域の人から話を聞き、実際に森を感じられる時間を大切に旅を設計しました。
ツアーを作りながら、自分自身、日本人と森の関わりについて深く考えました。
日本人にとって森とは
森林浴発祥の地である「赤沢自然休養林」は、樹齢300年を超えるひのきが林立している国有林です。
この森の木は、江戸時代から伊勢神宮の御用材としても使われています。
伊勢神宮に納める樹齢300年のひのき
そう聞くだけで、わたしたちにはこの森がどんな存在なのか、何かしら感じるのではないでしょうか。
ここへ日本に初めて行く、という海外の方をお連れし、この森のことを知ってもらうわけです。
植えてから300年たったひのきが生えている国の人工林
伊勢神宮、天照大神という日本神話について全く知らない、その感覚に触れたことがない人たちに、この価値をどのように伝えようか。今思えば、今回のツアーはあらゆるシーンにおいて、この視点が重要なポイントとなりました。
これはとてもわかりやすい例ですが、他にも日本の多くの森には、目に見えない、エビデンスでは証明できない、“宿る”、“祀る”、という表現に触れる機会があります。
それは宗教か?と言われると、何か異なる感覚なのですが、海外の方に伝えようと改めて考えた時、これは信仰心なのだなと気づきました。日本で信仰の話はどこかタブーとする文化を感じますが、わたしはこれから日本の森と未来を考える時、この価値観はとても大切だと感じており、森をテーマにもっと対話をしていきたいと思っています。
手を合わせたくなる、この感覚は何か?
巨木に、太陽に、時に手を合わせたくなるこの感覚は、自然に対して感じる感覚であり、自然に対するわたしたちの姿勢とも言えます。畏敬の念、これもまた証明できない、いや証明する必要のない想いであり、日本人が自然と向き合う姿勢の表れだと思うのです。
3泊4日のツアーは、羽田集合発着で大型バスを貸切り、道中全て自分たちも添乗をしました。
行きのバスでは、伊勢神宮の式年遷宮と森に関する動画を鑑賞しながら長野県上松町に向かいました。
上松町に到着した後は、観光協会の方から地域の文化について話を聞き、その後、森と未来の小野から「日本の森林浴の現状」そして「日本人の信仰」についてお話をしました。
1時間の講義の予定が、議論が止まらず2時間も続いたことは、日本への関心の高さを感じました。
この時、わたしたち日本人が考えさせられる貴重な気づきがたくさんありました。(後日報告会を予定しています!)
翌日は、地元のガイドさんと一緒に森林浴の体験です。
そう、ここが森林浴発祥の地とされている「赤沢自然休養林」です。バスを降りると一面に香るひのきの香り。参加者一同、その香りの豊かさに驚きました。
大きな木々が立ち並ぶその空間は、人が植えたとは思えないほど豊かな森で、先祖の想いに想像が膨らみます。
地元の方々の協力により、ロードの根を守ため参加者とウッドチップを蒔きました。
このチップがまたいい香りで・・・持って帰りたいという声も。笑
そして、この森を、心で感じてもらいたいと思い企画したのは、1985年伊勢神宮に奉納するために伐採された御神木の切り株の前で、ご神木を寝かせる(切り倒す)際にうたわれる木遣歌を聴くこと。歌い手の声に合わせて、みんなで合いの手を入れました。
“ヨーイヨイ!”
木曽といえば、ひのき!
ということで、森林浴体験の後、みんなで木曽ひのきを削ってスプーンを作りお土産にしました。
削るたびに香るひのきの香り、健康に良さそうね!と皆さん嬉しそうでした。
形の見えない日本の森林浴
2日間、上松町で過ごした後、参加者から疑問が溢れました。
「発祥の地は何が特別なのか?」
「あのガイドのやり方が日本の森林浴か?」
「ガイドたちは日本の森林浴をどのように学んだのか?」
なるほど。
この時、彼らは森林浴には、“やり方がある”と思っていることがわかりました。
奥多摩へ向かう道中2時間を超える質疑応答を行いながら、わたしはこう伝えました。
「日本の森林浴は、やり方が決まっていない。
その土地ごとに森と人の関わりがあり、先祖からの言い伝えやがある。
土地ごとに地域の文化を感じながら森林浴を楽しめるのも日本の森林浴の魅力
自分たちのやり方や見方を一旦手放して、その地域の森の魅力を探しに行きませんか?」
彼らは、ハッとした様子で、
「どれほど自分たちの固定観念に囚われていたか・・・」と話してくれました。
このやりとりを聞き、なんだか彼らの方が日本人のようだな、と内心不思議な気持ちになりました。
その土地や森、地域の文化に思いを馳せて、森を楽しんでみよう。
ツアーの後半は、東京都奥多摩町へ。
人と森、森林浴で価値観の交流を
奥多摩には、全国から森林浴ファシリテーターが8名合流し、1泊2日を共にしました。おくたま地域振興財団さんから奥多摩について紹介をいただき、その後ANFTの代表Amos Cliffordさんよりプレゼンテーションをしていただきました。
日本人参加者のほとんどが英語を話せませんでしたが、自分が活動する森の写真を見せ合ったり、互いにアプリを使って言葉を調べたり、森を愛するという気持ちに国境はありません。対話を楽しむ懇親会も、この日は言葉のいらないダンスで盛り上がりました。
翌日は、みんなで森へ。
奥多摩は、東京でありながら奥深い森があり、今回訪ねた登計トレイルは、森を歩くことの快適さを追求したようなロードがあり、日本人と海外の方と一緒に森を歩きながら、森の見方やガイドの方法、価値観について意見交換しながら交流をしました。
この交流は本当に素晴らしい経験でした。
違いに興味をもち、考え方を受け入れ、共に森を楽しむ。
森を一緒に楽しむ、ただそれだけで心が満たされました。
このツアーでの参加者の反応、学びや気づきについての詳細は、2024年2月26日(月)都内で報告会を設けてじっくりお話したいと思っています。
ツアー最後の振り返りでは、参加者全員が輪になり想いを伝えました。
初めて出会った国内海外の40名が、抱き合い、涙を流していました。
国籍や人種が違っても、森を愛する心は同じであること。
それは愛に満ちた時間でした。
「帰国してからも心が満ちています」
「森林浴の家族が世界中にいることがとても幸せです」
ツアーが終わってからもメッセージが届き、参加者からたくさんの想いを受け取りました。
森を思う気持ちが、世界の平和につながるのではないか・・・?
未来はこうあってほしいと強く思いました。
ツアーを終えて。
海外に伝わる森林浴は、身体への健康効果が評価され、その価値が伝わっています。
しかし、発祥国である日本人は効果云々関係なく、誰もが森林浴という言葉を知っていて、言葉が生まれる大昔から森と共に生きてきた暮らしがあります。
なぜ、今、数値化された森林浴の効果が見直され、これまで当たり前のように共に暮らしてきた森との関わりが、世界で注目を浴びるようになったのでしょうか。
この見えない価値が、今の時代を生きている人々の求めている本質であり、生き物である人間が忘れてはいけない感覚なのかもしれません。ツアーを通して、森と共に生きてきた日本人の姿勢は、これから地球環境と向き合い、デジタル化の進む世界の中で、新しい価値として見直される可能性を感じました。
このツアーは、来年も開催が決定しています。この学びを多くの方と共有し、引き続き森と未来のために取り組んでいきたいと思います。
*2024年2月26日(月)18:30〜都内、詳細決まり次第ご案内させていただきます。
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ー豊かな学びの記録ー
多様性が豊かな森は美しい
わたしたちも多様性が豊かであるから美しい。この美しさに基準はなく
それぞれの美しさが調和することで魅力を感じることができる。日本人にとって森は、たくさんの樹木がそこに生えているだけではない
森は、美しくて恐ろしく、優しくて厳しい。
そこには、ある種の存在が感じられる。
数値では証明できない、この感覚が伝わり続けているのは
四季があり、水に恵まれ、植生が多様な国土環境の日本において
災害と向き合いながら、この自然を守り続けてきた
想いの表れではないだろうか。
森林浴が生まれた背景には、その想いを文化として伝えてきたからなのかもしれない。この想いこそが日本のあらゆるモノやコトに宿る精神であり、
これからの時代に世界に誇れる価値になるのかもしれない。2023.12 小野なぎさ
Festivalではなく、祭りであり
Natureではなく、自ずから然り
この感覚こそ、未来に残す必要のある日本の心なのかもしれない。